「こんなとき どうする?」報告書を作成しました!

平成29年に閣議決定された自殺総合対策大綱では、「国民の一人ひとりの気づきと見守りを促す」「子ども・若者の自殺対策をさらに推進する」施策として、「SOSの出し方に関する教育の推進」が掲げられています。お金の学校くまもとでは、消費者教育としてワークショップを実施する中で、SOSを出す教育に取り組もうと考えました。この報告書は、この様子を紹介し、アンケート結果や本事業に対する多職種での意見交換会の感想をまとめたものです。

 

いっしょに考えようお金のこと。描こう自分がおとなになるってこと

2022年3月、お金の学校くまもとは岡山県の一般社団法人SGSGと共同で「いっしょに考えようお金のこと。描こう自分がおとなになるってこと」を作成しました。このテキストは、お金とのつきあうために必要な知識やスキルについて15のテーマで構成されています。その中の1つに、「こんなときどうする?」と題して、わからないことや心配ことがあった時にどうするのか、誰に相談するのかを考える内容にしました。このテキストを基に、大学1校中学校3校でワークショップを実施しました。

 

■意見を言う練習

このワークショップでは、まずアイスブレイクとして、「はい」「いいえ」「関係ありません」のいずれかで答えられる質問を繰り返すことで状況を整理し、真相を推理する水平思考クイズを行いました。固定観念に捉われない斬新な発想力が鍛えられるため、入学式やビジネスセミナー等で活用されていますが、当NPOでは、言いたいこと、聞きたいことを口にする、言葉にする練習として取り入れました。思ったことを事にするのは恥ずかしい、こんなことを言うと変だと思われるのではないか等と思うと、言いたいこと聞きたいことを口にできません。しかし、このクイズでは、一見何の関係もないように思える質問でも、近づくヒントとなり、たくさん質問をすればするほどヒントが集まり早く正解にたどり着く事ができます。つまり、言いたいことを言う、聞きたいことを聞くと良い事があるという経験をするのです。

次に4人一組になり、事前に出していた宿題を基に自分の考えを発表します。通常4万円のブランド物のバッグが、ネット通販で4千円。このバッグがほしい時、自分だったら、

家族、友人・先輩、学校の先生、学校の相談窓口、SNS(不特定多数の誰か)、警察、法律家(弁護士・司法書士)、こころの悩み相談@熊本県(LINE相談)、消費生活センター、その他(具体的に挙げる)の中で、誰に相談するか優先順位をつける。これが宿題です。ひとり30秒以内で、優先順位が一番高いものを理由とともに発表します。

 

■意見を言う練習、意見を聴く練習

続いて、これらの相談先が書かれたカードを使い順番を入れ替えながら、グループ内で優先順位について話し合います。ここでのポイントは、みんなの答えはみんなOK!という点です。意見が合わなくてもよい、ほかに人の意見が納得できなくてもよい。忖度することなく、自分の意見を言う。大事なことは、自分やほかのひとがそう考える理由。理由にじっと耳を傾けること。このワークの目的は合意形成ではなく、自分やほかの人の考え方の違い、価値観の違いに気づくことであり、多様な視点で物事を考えることです。大学生や中学生の考えは、実に多様でした。身近な存在として家族や友人に相談するという意見もあれば、SNSの方が気楽という声もありました。〇頁のアンケート結果を参考下さい。

 

■存在を知らないから相談できない

グループで話し合う中で気になったキーワードは、模造紙に書き留めていきます。その後、発表してもらったのですが、大学生中学生ともに「消費生活センターを知らない」「知らないと相談できない」という声が上がりました。消費生活センターは、家庭科の教科書に記載がありますが、具体的なイメージがわかないようでした。相談先を選ぶには、どのような相談先があるのか知り、どのようなことを行っているのか具体的に知る必要があります。子どもたちにSOSを出してもらうには、この課題をどうクリアしていくのか検討が必要です。

 

■相談のしかたがわからない

「相談のしかたがわからない」。これは最初にワークショップを実施した大学と次に実施した中学校で上がった声です。私は、長年、消費生活相談員として相談対応を行っていますが、この声に正直戸惑いました。困っていることを具体的に説明する。このことがいかにハードルが高いか実感しました。そこで次に実施する中学校2校では、ワークショップに内容を一部修整し、相談のハードルを下げるワークショップを取り入れました。

消費生活センターの相談員はプロだから、相談員から聞かれたことに答えればよいだけ。だけど、まず相談しようと思わなければ始まらない。相談のハードルをもっと下げよう。

最近のストレス解消法についてお隣の人を話してみようというワークです。困った、助けてと声をあげることができるには、常日頃から、小さなこと、ちょっとしたことを周りのひとに話す練習をする。これを繰り返すことで相談する力が身に着く。そして、信頼できるひとを選ぶ。この二つができて初めて、SOSが出せるのだと考えます。

 

■SOSを出す実践

私は、このSOSを出す教育を実践するためにワークショップを企画する際、なんのアイデアもありませんでした。そこで当NPOの仲間に声をかけ、ワークショップに詳しい人にSOSを出しました。〇頁を参照下さい。※〇の部分には、前田さんの感想文の頁を入れて下さい。ワークショップの骨子を教示してもらい、その後、仲間たちと一緒に具体化してきました。また、アイスブレイクや相談のハードルを下げるワークについては、スクールカウンセラー(臨床心理士)にSOSを出しました。〇頁を参照ください。※児玉さんの頁

私自身が信頼できるひとを選び、SOSを出すことの重要性を経験することで、この事業は進んでいきました。

 

■相談できるひとを増やす 信頼されるひとになる

新自殺総合対策大綱(令和4年10月14日閣議決定)では、「SOSの出し方に関する教育の推進」において、「子どもがSOSを出しやすい環境を整えるとともに、大人が子どものSOSを受け止められる体制を構築」を重点施策のひとつとしています。子どもが勇気を出して、「格安のブランド物のバッグを買おうか迷っています」とおとなに相談してきた時、「そんなことおかしいに決まっているじゃないか。くだらないことを聞くんじゃない。そんなこともわからないのか」と言われたら、二度とSOSは出さないのではないでしょうか。

「よく相談してくれたね。迷っているのは、どんなことかな」と耳を傾け、一緒に考えてくれるおとなを増やす必要があります。そのためには、どうすればよいか。このヒントを探すために、このワークショップの実践報告と意見交換会を実施しました。呼びかけたのは、当NPOが信頼する多職種の方々です。意見交換会後に参加した感想文を提出していただきました。〇頁を参照ください。

自殺対策や生活困窮者支援において多職種による連携とよく耳にしますが、教育も支援のひとつです。多職種でチームを組み教育を実施することも、SOSを出しやすい環境を整え、SOSを受け止められる体制の構築に大きな効果が上げられるのではないかと期待しています。

 

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