言葉は風 ー相談を受けるということ(その3)ー

先日、ケニアにナッツ工場を作って大成功した日本人を取り上げたテレビ番組を見ました。

その人は、佐藤芳之(さとう・よしゆき)氏。

佐藤氏は「援助では自立できない。必要なのは、アフリカ人の自立のためのビジネスである」という考えのもと、独自の経営スタイルを確立しています。

たとえば、社員が無料で使える医務室、社員の家族が病院にかかれば医療費の85%は会社持ちです。

また、社員が土地を買って住居を持てるように社内ローンもあります。

印象に残ったのは、佐藤氏が「カンパニーという言葉は、もともとパンを分け合う仲間という意味」だと言っていたことです。

この会社が生み出した雇用は10万人。

その雇用で支えられている家族は100万人。

ケニアの人口は約4000万人ということですから、実に40人に一人は、この会社に関係ある人ということになります。

 

佐藤氏の話で、もうひとつ印象に残ったものがあります。

それは「言葉は風」というもの。

ケニアの人は、昨日言った事でも今日はすっかり忘れているそうで、いくら「昨日はこういう話をしたじゃないか」と言っても「昨日はそうだったけれど、言葉は風。昨日のあの言葉は、もうキリマンジェロに飛んでいきました」と答えるそうです。

多重債務などのご相談を受けていると、同じような経験をすることがあります。

相談者が、昨日言っていたことと違う事を言う、昨日こうしたいと言っていたことを今日はやりたくないと言う・・・

 

佐藤氏は「言葉は風」というケニア人とのつきあい方についてこう述べています。

「(その人が言っていることが)どの程度本当かな、悪気がなくて言っている、つじつま合わせでその場で言っているその言葉の中から、この人は何に困っているのか、何が言いたいのか、すくい取る」。

これに対しインタビュアが「一回一回違うことを言う中から、何が言いたいのか見極めることは、とても難しいことなのではないか」と尋ねると、佐藤氏は「いやあ、楽しい。むちゃくちゃ楽しいですよ」と答えていました。

う~~~ん、さすがです!

 

ご相談を受けていると、こちらの思い通りに支援が進まずに、困る、落ち込む、時には相手に腹が立つなどということがあります。

相談者に寄り添って・・・などと言いつつ、やはりそこは、どうしても「人間だもの」と言いたくなります。

そんなとき「言葉は風、この相談者は何を言いたいのかなあ。何に困っているのかなあ」という対応ができたら、少しはうまくいきそうな気がします。

ついでに「話が違う」とだれかに言われたら、今度から「言葉は風。いつか言ったあの言葉は、もう阿蘇山に飛んで行きました」と答えようかと・・・

 

「言葉は風」、なんだかステキなフレーズだと思いませんか。

2011年 7月 会報 第21号より