文科省「若年者の消費者教育推進のための実証的調査研究」委託事業に採択されました!

子どもへの消費者教育プログラムを通じた地域との連携・協働モデルの構築

当NPO法人は、熊本県北の自治体、子どもや障害児を支援する社会福祉法人・NPO法人などとともに、平成31年度「『若年者の消費者教育の推進に関する集中強化プラン』における若年者の消費者教育推進のための実証的調査研究」に申請し、採択されました。

採択されたのは、「子どもへの消費者教育プログラムを通じた地域との連携・協働モデル」という事業です。若年者は商品や契約に関する知識が少ないだけでなく、消費者として主体的に判断する機会・経験が少ないので、子どもの頃からライフスキルを身につける教育の一環として、お金のやりくりを考える教育プログラムが望まれます。当NPO法人では、「人生いろいろやりくりゲーム」、「スマホって必要!?」などのプログラムを実施していますが、今回の事業では、(1)地域の関係機関(行政、NPO法人、社会福祉法人等)と協働してこれらの教育プログラムを改善すること、また、(2)教育プログラムの検討を通して、地域の様々な機関が連携・協働する仕組みを示すことを目指しています。

そこで、前田芳男先生(岡山大学教授)に助言をいただきながら、事業実施の進め方について話し合い、2019年10月から12月にかけて、アンケート調査やヒアリング、意見交換会、勉強会を実施しました。

 

 

●ヒアリング調査、アンケート調査

2019年9月~10月にかけて、児童養護施設シオン園施設長およびスタッフ、NPO法人スローすてっぷ(障害児通所支援事業、放課後等デイサービス、児童発達支援等)理事、NPO法人くまもとスローワーク・スクール(不登校児童、発達障がい児向けのフリースクール活動等)副代表、手話通訳者よりヒアリングを行いました。いずれも、情報が届きにくい方、生きる力を身につけにくい環境にある子どもや大人の支援者です。子どもや親の消費者トラブルを目のあたりにしていることから、消費者トラブルの実際や、どのような力・スキルを身につけてほしいと考えているのか、たっぷりお話を伺いました。どのような環境の子どもであっても、生きるための力(知識やスキル)が必要であり、具体的な教育が必要であることがわかりました。

同時期に、県北の教員や職員へのアンケート調査、消費生活相談員へのアンケート調査を実施し、80余名の回答がありました。川﨑孝明准教授(筑紫女学園大学)に分析をお願いしました。アンケート結果は、文科省への報告書にまとめます。

 

●意見交換会

小学一年生向けの雑誌付録のATM・使い方の説明をしています。

小学一年生向けの雑誌付録のATM・使い方の説明をしています。

2019年10月15日(火)、11月19日(火)に2回にわたり、高瀬蔵(玉名市)にて意見交換会を実施しました。

第1回意見交換会では、本事業の説明を行った後、消費者トラブル(契約トラブル・多重債務・生活困窮問題等)からみる子どもの消費者教育の必要性について情報提供や意見交換を行いました。お金の教育は生きる教育である、子どもとお金のトラブルを考えるにはスマホは切り離せない問題であるなどさまざまな意見が出ました。

第2回意見交換会では、子ども向けプログラムの一部を紹介、実践した後、子どもの発達段階を考慮した教育プログラムのモデル案およびそれぞれの立場でできること・できそうなことについて意見交換をしました。

消費者教育は重要であるものの、小学校や中学校は非常に多忙であることから、消費者教育を追加することで教員の負担がさらに増えるのではないかと懸念され、「現在行われている教育を消費者教育という視点で見直すことでできることもあるのではないか」との意見が出されました。

消費者教育だけでなく税の教育などコラボすることで、子どもたちの学びが広がり、深度も増すので、他機関の専門職との連携・協働の重要性を痛感しました。

高瀬蔵での意見交換会の様子

高瀬蔵での意見交換会の様子

意見交換会に参加された機関・団体等は以下の通りです。

  • 児童養護施設シオン園
  • 特定非営利活動法人くまもとスローワーク・スクール
  • NPO法人スローすてっぷ
  • 玉名市くらしサポート課
  • 玉東町総務課
  • 長洲町総務課、教育委員会
  • 和水町総務課、学校教育課、消費生活相談員
  • 南関町総務課
  • 熊本県環境生活部県民生活局消費生活課(順不同)

 

●西村先生来熊!~指導・助言~

2019年12月8日(日)、西村隆男先生(横浜国立大学名誉教授)に熊本にお越しいただき、本事業について指導・助言を受けました。当日は、通常の例会の後、西村先生に事業の実施状況、ヒアリング調査や意見交換会の概要を説明し、助言やコメントをいただきました。

例えば…

  • 熊本での実践を熊本モデルとしてアピールしてほしい、
  • 実践の伝え方・ノウハウを視覚化できるとよい、
  • 消費者教育のユニバーサルデザイン化はキーワード、
  • 消費者教育では、消費-福祉-労働3つの視点が重要、
  • 学校での取り組みにはばらつきがあるので確認が必要
  • 消費者条例の制定も成果の一つ、などなど

 

今後、2月11日に開催される消費者教育フェスタin秋田での中間報告、報告書類の作成において、西村先生の助言を活かしたいと思います。ありがとうございました。

(隈直子)

 

 

個人情報の共有・活用を前提とした支援現場とは?

川﨑 孝明

社会福祉分野において、2019年10月に個人情報の共有と活用を目的とした生活困窮者自立支援法の法改正が行われました。この改正では、次のような内容が盛り込まれることになりました。

 

  1. 関係機関が参加する支援会議を組織することができること(法9条)
  2. 支援会議のメンバーには守秘義務を設けること(法9条)
  3. 守秘義務違反者には罰則が設けられること(法25条)

 

このような規定を設けた背景には、2014年9月、家賃の滞納を理由に県営住宅から退去を迫られた母親が、強く追い詰められ娘を窒息死させてしまう事件が発生したことが挙げられます(この事件を取り上げたものとして、井上英夫ほか編『社会保障レボリューション:いのちの砦・社会保障裁判』高菅出版、2017年)。これを制度の問題として受け止めた場合、庁内および庁外関係機関との密接な連携体制の構築が課題として指摘されました。支援や体制整備の遅れは、ときに生命に大きな影響を及ぼす可能性があるため、留意が必要であるのはいうまでもないことです。

 

今回の規定は、関係機関の狭間で適切な支援が行われないといった事例を防止するとともに、深刻な困窮状態にある世帯など支援を必要とする方を早期に把握し、確実に相談支援につなげることができるような環境整備が期待されています。

 

特に注目すべきは、次の2つです。1つは、生活困窮者に対する支援に携わる関係者間の情報の共有及び支援体制の検討をする会議を法定し、会議体の構成員に対して守秘義務をかけることで本人の同意がとれないケースであっても、必要に応じて地域における個々の生活困窮者等に関する情報共有を行えるようにしたことです。

 

2つめには、生活困窮者に関する情報の交換等を行うために必要がある場合は、関係機関等に対して「生活困窮者に関する資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めること」が可能になったことです(ただし、支援会議において地方税法第22条により、地方公務員が業務上取り扱う一般的な個人情報より厳しい守秘義務が課せられている税務職員が有する納税者等の情報を本人の同意なく共有することまでは想定していません)。

 

上記2点を踏まえて、相談支援場面での迅速かつスムーズな関係機関による情報共有と情報の活用が図られる基盤が整備されました。

 

しかしながら、いまだ個人情報の共有と活用について共通認識が図られているとは限りません。「本人の同意なく個人情報は出せない」「個人情報保護は当たり前」といったステレオ型の思考(誤った理解をしているケースもあります)をもつ人も少なくありません。もちろん、原則個人情報は本人の同意なく共有してはなりません。ここで注視すべきは、「原則」と「例外」を見極めることでしょう。

 

例えば、介護現場においては、法に基づき身体拘束は原則禁止です。しかし「緊急やむを得ない場合を除き」という条件が付言されています。つまり、緊急やむを得ない場合(例えば、職員が少なくなる夜間帯での介護など)には身体拘束をしてもよいとされています(あくまで本人、家族の同意が前提)。

 

個人情報の共有について、今回の生活困窮者自立支援法では、「支援会議」をはじめ、介護保険法に基づく「地域ケア会議」、児童福祉法に基づく「要保護児童対策地域協議会(要対協)」において、守秘義務をかけることで、支援者間の積極的な情報交換や連携が可能になりました。この内容はあくまで福祉分野の話ですが、一般的にも個人情報について条件付きで本人の同意なしに第三者へ情報提供することは認められています。

 

例えば、「原則として、個人情報を第三者へ提供するためには、本人の同意を得る必要があります。ただし、条例で個人情報を第三者へ提供できる旨定めている場合や、個人情報を第三者へ提供することについて、事前に個人情報保護審議会等へ諮問を行っている場合などについては、本人の同意なしに第三者へ提供することが可能です。」(北海道総務部法務・法人局法制文書課行政情報センター「個人情報保護に関するいわゆる「過剰反応」に係るQ&A」(平成31年2月改訂版、23頁)など、人の生命、身体又は財産の保護のために必要な場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときは、本人の同意を得ることなく情報の提供は可能なのです。

 

以上のような点について、さらに関係機関と基礎知識を共有しなくては、迅速かつ適切な支援を展開することは困難です。ソーシャルワークとは、本人の最善の利益を守ることを意味します。専門職が本人の自己決定に介入できる根拠もそれがあるからです。

 

「個人情報の活用なくして、人を支えることはできない」。この言葉がいろんな方面で浸透するよう、これから取り組んでいきたいと思っています。

 

2020年 2月 会報 第37号より