ハイリスク者の抱える課題・分析等のアセスメントツール開発事業

【平成29年度熊本県自殺対策補助金事業】

 

平成29年度、お金の学校くまもとでは、熊本県自殺対策補助金事業の一つとして、「ハイリスク者の抱える課題・分析等のアセスメントツール開発事業」を実施しました。

具体的な自殺対策を講じるためには、当事者が抱える課題の把握と地域の実情を理解することが重要と考えます。そこで、私たちは、自殺リスクの高い人が抱える課題をアセスメントするためのわかりやすい(使いやすい)ツールを開発することを目的として事業を実施しました。

 

【これまでの実績】

当法人では、これまでに自殺対策補助金事業を活用し、アセスメントシートを作成した経験があります。一昨年度(平成28年度)には、県北の2自治体で、このシートを使って調査を実施し、評価項目や指標など改善したい点も見えてきました。そこで昨年度は、使用者の感想を基に、よりわかりやすいシートへと改良を目指すことにしました。

 

 

【今回の事業内容】

自殺の動機には、経済問題もあげられており、経済問題や生活問題の相談先の一つである消費生活や生活困窮の相談窓口には、自殺のハイリスク者からの相談も寄せられると考えられます。今回、県北にある自治体の生活困窮者自立支援担当課に協力していただき、職員・支援者がどのように相談者の状況を理解しているのか、支援者がどのようなことを相談者の変化として評価しているのか、事例ごとに聞き取り、検討を行うこととしました。支援者が使いやすいアセスメントシートを開発するためには、支援者の意見を聞く必要があると考えたわけです。

 

平成29年10月から平成30年3月にかけて計8回にわたり、1回あたり約2時間かけて生活困窮者自立支援の担当者、自立支援・就労支援等にかかわる職員らとともに、これまで担当した事例のふり返りを行いました。そして、支援者が相談者の変化をどのようにとらえているのか、支援者が相談者の変化として評価している項目、キーワードをあげ、その集約を試みました。

 

 

【検討の結果】

支援者から出された意見から、3つの示唆が得られました。

  1. 支援者は、実際に相談にかかわる中で、世帯が抱える課題の数(チェック項目数)と課題の深刻度、家族の人数は関連があると感じているようです。家族人数が多いと、世帯が抱える課題も多くなる、家族のパワーバランスも複雑になる、家族間の利益が相反する、誰がキーパーソンか分かりにくい=誰にアプローチすればよいのかわかりにくい、といった状況になりやすく、課題の解決が非常に難しくなります。支援する側からは、家族の人数、課題の数、課題の深刻度がシートから見えやすい工夫が求められています。また、このような事例が集積すると、自治体に多い生活困窮世帯の傾向を示すことができ、地域の生活困窮者の状況把握に役立つと考えられます。
  2. 支援者は、相談機関がかかわることで生じた変化として、相談者自身の変化だけでなく、相談者を取り巻く環境の変化および援助する側の変化にも目を向けていることがわかりました。

    ⅰ)相談者自身の変化(例:面談の日時を守るようになった、電話に出るようになった、会話が増えた、何かを買う前に連絡をしてくれる等々)

    ⅱ)相談者を取り巻く変化(家族や地域のかかわり方が変わった、職場が変わった、健康状態が変わった等々)

    ⅲ)援助側の変化(相談者とつながっている関係機関が増えた等)

  3. 相談者の関係性(つながり)に着目し、関係性の貧困から抜け出したかどうかを自立の尺度として、暮らしている地域で見守る人ができたかどうか等で自立の度合いを測ることを検討してはどうか。

 

今回の検討を通じて、支援者が使いやすいアセスメントシートとは何かを改めて考えることができました。その事例の困難さをどうやって表すことができるのか(抱える課題の数・深刻度)、困難さの程度を見えやすくするための工夫が必要であるとともに、相談機関がかかわることで生じた相談者自身の変化、相談者を取り巻く環境の変化、支援者の変化をいかに評価指標として取り入れるか、課題が明確になりました。

今後、アセスメントシート作成にかかる職員の負担を軽減することも考慮しながら、シートの改善に取り組みたいと思います。

 

 

2018年 8月 会報 第33号より